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バンコク便り

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第5回 「華僑報徳善堂ボランティアにまつわる都市伝説」

アーサーがEMS費用の大部分も負担する

  前回、ボランティア隊員であるアーサーについて紹介し、その存在がタイの救急救命活動(EMS)を支えていることを書いた。アーサーは消防や警察、いろいろな団体にも存在する。功徳を好むタイ人らしいシステムで、報徳堂だけでなくタイ社会でうまく機能している点は世界に誇っていいと思う。タイにおいてアーサーはなくてはならないものなのだ。
 報徳堂などのタイのEMSに関係するアーサーの社会的貢献は、本来国が負担するべき活動費用の大幅な削減にも繋がっている。というのは、アーサーは全員、装備品すべてを自前で揃えるからだ。無線機、制服、救急箱にその中身はもちろんのこと、アーサーが使用する救急車(主にピックアップトラックを改造したものだが、2012年以降バンを改造したものが増えている)、赤色灯、担架、ガソリンなど、あらゆるものすべてをアーサーが自費で購入している。
 決して安いものではないのでアーサーも本当に好きでなければできるものではない。しかし、やはり功徳が身についているからか生活を切り詰めても装備を揃える人が多い。タイにいるとこのことが普通に見えるのだが、これは案外すごいことなのだと僕は常に感心してみている。

アーサーが使用するものはすべてアーサーが自分で購入したもの
アーサーが使用するものはすべてアーサーが自分で購入したもの

アメリカ製の救急バッグ
アメリカ製の救急バッグ


応募には訓練修了証が必要になった

 そんな報徳堂のアーサーになるにはおよそ2年に1回ある登録時期に応募しなければならない。しかし、公に募集をかけないので、まめに報徳堂に確認するか、近所のアーサーたちと仲よくなってから入隊するしか道はない。現実的にはどこかの管轄に所属しないといけないので、後者しかアーサーになれないと思ってもいい。
 応募に必要な書類は次のものだ。

①申込用紙
②IDカード(20歳以上であること。基本的に学生は不可)
③健康診断書
④規定の応急処置訓練修了証明書

 応急処置の訓練修了書はいくつかの病院で行われている講習会に参加した証明書だ。以前は未経験者歓迎だったが、昨今は最低限の知識が要求されるようになった。バンコクだとウィパワディー病院などが定期的に開催している。


分担制で、団体間の抗争はほとんどない

  アーサーは担当地区内であれば好きな時間に参加していいことになっているが、バンコクでは実質1日おきにしか活動できない。というのは、タイの2大レスキューである報徳堂と義徳堂で担当地域を分担しているからだ。
 バンコクではペッブリー通りを境に南北に分け、朝の8時を起点に両者で交代している。例えば当月の偶数日は北を報徳堂、南を義徳堂、奇数日はその逆という風にしている。これは分担にしていなかったころに発生した抗争などを鑑みて作られた制度で、一般的にはあまり知られていない。
 1990年代頭くらいまでは、報徳堂と義徳堂は現場の取り合いをしていた。現場で主導権を握り、マスコミに露出すれば活躍をアピールでき寄付金も多く集まる。主導権の取り方は至ってシンプルで、事件が発生したら現場に急行し、先に被害者もしくは死体にタッチすればよかった。
 この場合、現場に急行するのはバイクに乗ったアーサーたちで、彼らが無茶をして現場到着までに自分が仏になる事案が多々あった。そのため、バンコクにおいては警察や国、報徳堂と義徳堂で取り決めをした結果、バンコクを南北に分け交代制になった。いまだに報徳堂と義徳堂は険悪で、暴走族まがいの不良少年たちがアーサーになると思っている一般人は少なくない。もはや都市伝説と言っていい。小さな慈善団体の連中が縄張り争いの事件を起こしているが、2大レスキューは現在では協力し合ってEMSを遂行している。

無線機は中古でも1000バーツ、新品は安くても2000バーツ以上はする
無線機は中古でも1000バーツ、新品は安くても2000バーツ以上はする


アーサーにまつわる都市伝説

 都市伝説と言えば、アーサーが泥棒をするというのもいまだに聞かれる。しかし、現在ではそのようなことをするアーサーはいない。タイ人の多くが裕福になったからとも言えるが、報徳堂などのレスキュー慈善団体本部が最も取り組んでいるEMSに対する心得と意義の啓蒙でひとりひとりが活動に誇りを持ちEMSに注力するようになった。
 例えば、現場では警察官の立ち会いの下、要救助者もしくはその関係者がいる前でしか持ち物を確認しないようにくどいほどに言われている。死亡していたり、関係者がいない場合は野次馬をそばに呼んででも行うように指導が徹底している。
 2004年から参加している僕だが、これまで一度だって被害者の金品をアーサーが盗んだという話を聞いたことがない。今はそれくらい誰もが気をつけているし、そんなことをしようとも思わない。
 それでもいまだに「アーサーを見たら泥棒と思え」的なことを思っている人が少なくない。そんな人も事件事故ではアーサーの世話になるというのに。

所持品確認は気を遣う
所持品確認は気を遣う


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  1. 2014/10/30(木) 05:09:28|
  2. 報徳堂
  3. | コメント:0

第4回 「華僑報徳善堂ボランティア隊員たち」

タイEMSを担う主役はボランティア

 これまでに報徳堂の本部職員のレスキュー部門について書いたので、今回はボランティア隊員について紹介したい。
 ボランティアはタイ語では「アーサーサマック」という。会話の中では省略してアーサーと呼ぶ。これは報徳堂だけでなく、消防や警察、各種慈善団体でも同じようにボランティア隊員や職員が存在し、アーサーという。功徳を好むタイ人らしいシステムで、うまく機能している点はもっともっと評価されるべきことだと思う。
 タイのEMS(救急救命活動)はこのアーサーに頼る部分が大きい。というのは、報徳堂でいえば、本部隊員はせいぜい200人いるかいないかといったところで、バンコクですら活動範囲を網羅することが難しい。人員を増やすにしても寄付金で成り立つ慈善団体では簡単なことではない。そこで要となってくるのがアーサーで、報徳堂は1500名近くのアーサーを抱えているとされる。これだけのマンパワーがあって初めてバンコクのEMSを担うことができるのだ。

街中の事故現場で活躍するのはボランティア隊員
街中の事故現場で活躍するのはボランティア隊員


外国人ボランティアは珍しい存在

 当然ながら、タイにいくつもあるレスキュー団体に所属するアーサーはタイ人ばかりだ。そんな中に僕はいるので、全国的に見てもレスキューの外国人アーサーというのはかなり珍しく、一時期はメディアの取材をよく受けた。数回ほどタイの全国放送でも取り上げてもらったことがあり、知らない人から見たと言われたこともあった。
 2011年3月には日本人向けクラブ街で有名なタニヤの真ん中にある大きなビジョンで、僕ひとりだけを取り上げてもらったタイ7チャンネルの特集が放送されたらしい。夜中の1時半のカラオケ店が閉店する時間帯で観た人も多く、呼び込みのホステスたちに「レスキューさん」と呼ばれるようになり、微妙な気分になったことを憶えている。
 僕が受けた取材は記憶にあるだけで、タイのテレビが3局、タイの新聞1社、シンガポールのテレビ、台湾の新聞、日本のニュース番組がある。日本のはどうやら不採用になったようだし、台湾とシンガポールはその後どうなったかは不明のままだ。タイの新聞もその後その記者に会っていないので掲載されたのかわからない。友人らからは「ミスター・お蔵入り」とニックネームをつけられたが、2011年以降はタイのテレビでは放送される確率の方が高い。
 タイの番組は撮影意図を説明せずにインタビューが始まるので、正直、困る。アーサーとしてのインタビューと思えばタイの国王陛下を称える番組だったこともある。ただでさえタイ語で話すというのは難しいし、日本語であったとしてもカメラの前で思っていることをすらすらとは言えないものだ。
 自分でちゃんと確認できた放送では結構ペラペラ喋っているものがあった。あれはレポーターがいきなり話しかけてきたので、まさか映っているとは思ってもいなかったからだ。


ボランティアチームの構成

 アーサーは基本的に各警察署の管轄エリア内で活動する。僕が所属するのはホワイクワン署管轄だ。1署当たりにアーサーは20名前後が配置されている。チームは2~3署分をまとめて1チームとするので、各アーサーのチームには大体60名前後が所属することになる。
 チームの中で001の番号を持つ人が一応の責任者で、この責任者のやり方でだいぶチームの色が変わる。若い人だと自由過ぎてまとまりがなかったり、逆にうちのチームのようにベテランが取り仕切っていて規則が厳しいチームといろいろある。まとまりがある方が本部との連携も多くなり、本部のイベントの手伝いやテレビ取材などに呼ばれ、いろいろとおもしろいことが多い。

地元の仲間がボランティアになるので仲がよい
地元の仲間がボランティアになるので仲がよい


 アーサーになる人の職業もまたいろいろだ。バイタクの運転手から芸能人まで様々いる。僕の所属チームの場合、隊長はタイの某銀行に勤めているし、バイタク、タクシー、日系企業の社長の運転手、会社員、国立病院職員、看護婦と多岐に渡る。
 芸能人は報徳堂の活躍を広く知らしめるための広告塔として、スィラピン(タイ語で芸術家という意味)というグループに入り、所轄に関係なく好きな場所で活動ができる。
 アーサーにも本部隊員にも隊員番号が与えられ、無線交信はすべてその番号を使用する。一般的なアーサーは所轄警察署の名前と番号が組み合わさる。僕の場合は「ホワイクワン005」だ。ライターとして取材を考慮すると本当はスィラピンに入って自由に動き回りたいのだが、さすがに厚顔すぎて本部にお願いをしたことはまだ一度もない。
 
サングラスの人は芸能人
サングラスの人は芸能人

  1. 2014/10/02(木) 17:23:42|
  2. 報徳堂
  3. | コメント:0

プロフィール

bangkokdayori

Author:bangkokdayori
●プロフィール
高田胤臣(たかだ たねおみ)
タイ在住ライター
報徳堂ボランティア隊ホアイクワン005

1977年東京生まれ
1998年初訪タイ。その後旅行で何度かタイを訪れ、2000年から1年間、ユニオン・ランゲージスクールに語学留学
2002年9月からバンコク在住
2004年11月から華僑報徳善堂にボランティア隊員として参加
2011年2月に彩図社より「バンコク 裏の歩き方』(皿井タレー共著)、2012年8月に同社より「東南アジア 裏の歩き方」を出版
現在はバンコクに編集部がある月刊総合誌「Gダイアリー」に複数の連載やほぼ毎月特集記事を、ウェブサイト「日刊SPA!」やバンコクの無料誌「DACO」にて不定期で執筆中

http://nature-neneam.boo.jp/

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