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バンコク便り

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第18回「目の前で黒人が撃たれた!」

大通りに響いた銃声

 その日、最初のけが人が発生したのは深夜1時だった。現場に急行し、戦勝記念塔の国立病院に送り届けた。
 我々報徳堂や義徳堂などの慈善団体が傷病者を病院に運ぶと、国から奨励金が1件につき350~500バーツ程度が支払われている。本部としても活動費を稼がなければならないので、取りこぼしのないようにする。そのために必要なのが本部への報告だ。毎回、搬送が完了すると、傷病者の氏名や年齢、住所を無線で本部に報告する。タイ人は14歳以上にはIDカード携帯義務があるなので、身元は簡単に判明する。
 これに伴い、我々アーサーは応急処置のほかに身分確認という作業が必須になる。ただ、これが結構厄介でもある。軽傷だったり、まともな人であればすべてはスムーズに終わる。しかし、意識不明だと財布を盗んだなどと疑われないように知り合いをまずは探さなければならないし、泥酔しているとIDカードを出すまでにこちらが頭を下げなければならなくなる。病院にていずれ出さないと治療は受けられないので、ごねる意味がまったくないのにも関わらず、揉めてしまうこともあるのだ。
 病院側も誰が搬送してきたかを明確にしておくことと、奨励金を支払うために国の機関(恐らく救急医療を管轄する公共保健省)へ情報提供しなければならず、搬入ノートを用意している。国立病院だと報徳堂専用ノートなどもあって、そこに隊員番号、傷病者名、発生場所と時間などを記入する。デジタル化すればいいのだが、これは2004年に初めて僕は入隊したときからなんら変わる気配はない。
 そんなわけで、傷病者を搬送すると1件だけでも案外時間がかかる。その日は1時に発生したけが人を送り届け、再びラチャダー通りに戻ってきたときには深夜2時をやや過ぎていた。タイのバーやディスコは深夜2時までしか営業できない。イメージではバンコクは眠らない街と思われがちだが、意外と日本よりも早く終わってしまう。
 2時が過ぎ、ラチャダー通りソイ4のパブ街からたくさんの酔客が吐き出されてきていた。そして、それを目当てにしたタクシーが彼らを待ち構える。それによって大渋滞が発生する。
 僕はピックアップ・トラックを改造した救急車の荷台に座っていた。ソイ4とは反対側の下り車線も大渋滞だった。上下線とも4車線のうち2車線を酔客が埋め、1車線をタクシーが停車して堰き止めている。渋滞は当然で、あまりのモラルのなさに僕は呆れながら反対車線を眺めていた。
 そのときだった。乾いた破裂音が響き、反対車線の人々が叫び声を上げながら逃げ惑う。タイで暮らしていると絶対に日本では体験しないことが嫌でもできる。僕自身ももう何度か経験したことがあるので、なにが起きたかすぐにわかった。銃声だ。発砲事件が目の前で発生し、人々が逃げ出しているのだ。
 逃げ惑う人々の足下に、ひとり、うしろに倒れ込んだ人影が見えた。瞬間、僕は運転手に向かって叫んだ。
「人が撃たれた!」


酔った不良が撃った?

 荷台から飛び降りて、中央分離帯の柵を乗り越え倒れている男性に駆け寄った。黒人の男性だった。友人男性と恋人らしき女性、被害男性の3人組はアフリカのケニアから来た旅行者で、被害男性が犯人に最も近く、被弾した。
 3人は動揺しており、助かるのかとしきりに訊く。弾は足の付け根の辺りに命中していたが、背中側には抜けていなかった。医師ではないのではっきりは言えないが、僕の意見は大丈夫だと思うと答えた。幸い、被害男性の意識ははっきりしていたし、出血もほとんどない。もちろん素人目で判断してはいけないのだが。
 女性は救急車を呼んでくれと言う。彼らには報徳堂の制服はわからない。救急車は今向かっていると告げた。だが、この渋滞ではわずかの距離でも10分はかかる。応急手当だけして、発生した状況を聞き出す。
 ソイ6の巨大ディスコ「ハリウッド」で遊んだあと、プラトゥーナームの宿に帰るために歩いてここまで来たが方向は合っているのかと訊いたところ、いきなり撃たれたのだという。銃は、銃声もそれほど大きくなかったことから小型のものか、違法製造されたペン型銃ではないかと推測される。被弾したとはいえ、幸い発射されたのは1発だけだった。
 僕に話すときは英語だが、3人の会話はスワヒリ語らしき言葉で、それもかなり大きな声で話していた。恐らく黒人だからということで撃たれてしまったような気がしてきた。
 タイ人は白人を特別視する人が少なくない。一方で黒人はあまり好きではない。ただ、これは欧米社会での人種差別とは全然違うもので、タイ人特有の価値観の延長線上で、あくまで好きか嫌いかというだけの話だ。ご存知のように、現代タイにおける富裕層というのは多くが華人だ。そして、華人は色白が多い。富裕層はそれなりに自分を磨く金もあるので、女性はより美しく見える。そんなこともあって、タイ人にとって色白はイコール金持ちっぽいし、美人っぽいというのがステレオタイプなイメージになる。タイ人が白人を好きで黒人を嫌いなのは、単にこの価値観の延長線なのだ。
 今回はラチャダー通りという柄の悪いタイ人も来るようなエリアだった。ただでさえ後先を考えずに行動してしまう不良少年が泥酔していたら。そこにやかましい黒人が英語で捲し立ててきたら。こういっては彼らに悪いが、撃たれるのもわかる気がする。

ホワイクワンは下町なので不良も少なくない
ホワイクワンは現地採用で働く日本人も多く暮らすが、下町なので不良も少なくない。写真のように手錠をかけられる若者もよく見かける。

搬送が終わると無線で本部に状況を報告
搬送先の病院ではこのようにノートに傷病者の情報と、我々の隊員番号を記入する。病院によっては我々の個人携帯まで記入しなければならない。


タイの刑事はいたって普通の身なり

 ケニアは英語も公用語でそれなりに話せるし、そこそこ裕福なのか金もクレジットカードもあるということで、最寄りの私立病院「ラマ9ホスピタル」に搬送した。
 ここでいつもの身元確認が必要になったが、英語はできるので問題はないものの、姓名を聞き出すのに苦労した。名前こそマイケルといったイングリッシュネームなのでわかるが、何度聞いても苗字がわからない。紙に書いてもらったが「Njugum」みたいなもので読めない。無線報告するのはタイ人アーサーの役目なので、まあいいか、と僕は諦めてメモをほかの隊員に渡した。
 さすがに凶悪事件の部類に入るので、管轄のホワイクワン署から刑事が来た。といっても、日本のドラマのような刑事の姿はどこにもなく、市場などをうろうろしていそうな、Tシャツに半ズボン、ビーチサンダルの普通の中年タイ人男性だった。一応警察手帳もあるにはあるのだが、胡散臭すぎる。タイの警察署には交通課、機動課、経理課のほかにソープスアン・スープスアンという部門がある。これは日本でいう公安警察のようなもので、制服は一切着ないで一般市民に紛れて生活をし、情報収集や捜査を行っている。恐らく彼らはその部門なのかと思う。
 黒人らは顔もよく憶えていないし、逃走した際のバイクのナンバーも当然見ていない。また、目撃者も発生と同時に逃げ出しているので逮捕は絶望的だと刑事は言った。タイ警察の捜査能力は決して低くない。また、タイ人はIDカードを作成する際に指紋を採っているので、現場に指紋があって、犯人がタイ人の場合は100%検挙可能なレベルではある。しかし、今回はなんの物証もないのでどうしようもないのだ。黒人から聞いた話を僕が刑事にしている間、治療室の方から被害男性の叫ぶ声が聞こえている。
 その後、病院側と報徳堂本部から問題なく搬送したというサインをもらっておけと言われ、再び僕が治療室に入らされた。普通タイ人やほかの外国人ではこんなことはしないのだが、声の大きさから判断するに粗暴であり、黒人ということでやはり信用していないのか、あとでトラブルがないようにという措置だった。
 治療室には治療台に仰向けに寝かされた被害男性とその恋人の女性しかいなかった。医師はまだ来ていない。男性は胃の内容物を吐き出したのか、裸の上半身は吐瀉物で汚れている。けがした部分、つまり下半身もズボン、パンツ共に脱がされ、ほぼ全裸になっている。そして、彼は恋人になにかを怒鳴りつけていた。この声が外にまで聞こえていたのだ。これだけ元気なら僕が見た通り、命に別状はないだろう。
 全裸ではなく、ほぼ全裸というのは、なぜか靴下だけ脱がされていなかったからだ。黒い肌に臑までの中途半端な長さの白いソックス。そして、怒鳴り続ける男性。奇妙な光景だった。恋人もうんざりした顔をしている。よくよくその怒鳴り声を聞くとどうやらこう叫んでいる。
「ソ-ックス! ソーックス!」
 脱がしてくれと言ってたのだろう。僕は思わず笑ってしまったし、申し訳ないが、そらアンタは撃たれるわ、と思ってしまった。

搬送先の病院では傷病者の情報と我々の隊員番号を記入する
搬送先の病院ではこのようにノートに傷病者の情報と、我々の隊員番号を記入する。病院によっては我々の個人携帯まで記入しなければならない。

身分を確認するのに手こずる
搬送が終わると無線で本部に状況を報告する。その間が我々のちょっとした休憩時間。慣れているとはいえ、搬送はアドレナリンが出るので落ち着く時間でもある。


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  1. 2016/04/25(月) 20:01:16|
  2. 報徳堂
  3. | コメント:0

プロフィール

bangkokdayori

Author:bangkokdayori
●プロフィール
高田胤臣(たかだ たねおみ)
タイ在住ライター
報徳堂ボランティア隊ホアイクワン005

1977年東京生まれ
1998年初訪タイ。その後旅行で何度かタイを訪れ、2000年から1年間、ユニオン・ランゲージスクールに語学留学
2002年9月からバンコク在住
2004年11月から華僑報徳善堂にボランティア隊員として参加
2011年2月に彩図社より「バンコク 裏の歩き方』(皿井タレー共著)、2012年8月に同社より「東南アジア 裏の歩き方」を出版
現在はバンコクに編集部がある月刊総合誌「Gダイアリー」に複数の連載やほぼ毎月特集記事を、ウェブサイト「日刊SPA!」やバンコクの無料誌「DACO」にて不定期で執筆中

http://nature-neneam.boo.jp/

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