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バンコク便り

第33回「ベトナムからタイを感じるとき 後編」

ベトナムの生ビールが世界随一のコストパフォーマンス

 ベトナム人は出身によって気質が違うと前回述べたが、それがビールにも見られる。
 ハノイには「ビア・ホイ」がある。生ビールのことで、樽にビアサーバーではなく、管を直づけしてグラスに注ぐものだ。当のハノイの若者も最近は「中身がなんだかわからないから」とビア・ホイを敬遠するので減りつつあるらしい。様々なレストランであまったビールを樽に詰め直しているという噂があるのだ。しかし、屋台のプラスチック椅子に座って飲む7000ドン(約40円)という激安ビールは僕にとってハノイの喜びのひとつである。
 これが、なぜかホーチミンにはほぼ存在しない。南部では生ビールを「ビア・トゥオイ」と呼ぶが、安宿街のブイビエンでさえ屋台では1軒しかなく、しかもその店も平日にたまに置いているくらい。南部には生ビール文化が存在しないようだ。
 ちなみに、中部もほとんど見かけなかったが、古都ホイアン(ダナンから車で30分くらい)には「フレッシュ・ビール」なるものがあり、これは3000ドン(約17円)と、ベトナム最安値の生ビールだ。味も普通のビールで、ここに住みたいと思ったものだ。
 タイはアルコール類は高額だ。日本酒や焼酎は輸入関税がゼロになっているはずだが、ほかの酒税などが高いので、店で飲むと金がかかる。その点、ベトナムはいい。実際、ビールの消費量はアジア内で中国、日本に次いで3位だ。東南アジアではダントツのトップである※。これだけ安ければビールを飲むのは当然の結果である。

※参照:ビール消費量/生産量 2010~2017

ビア・ホイは樽から直接グラスに
ハノイの屋台で見られるビア・ホイはこういった樽から直接グラスに注ぐ。

カオラオとベトナム最安値?の生ビール
ホイアン名物のカオラオ。奥のビールがベトナム最安値(?)の生ビール。


麺類も見逃せないベトナム

 ベトナム料理の中でも麺類はぜひとも食べてほしいジャンルのひとつだ。正直に言えば、特に米粉麺はタイの方が勝っているとは思う。タイの米粉麺クイッティアオは麺にコシもあるし、バリエーションも豊富だ。
 ベトナム麺の代表格「フォー」は、クイッティアオに比べてコシがなく、麺を食べる喜びがない。しかし、今年東京・池袋に進出した「フォー・ティン」のハノイ本店で数年前に牛肉フォーを食べて見方が変わった。コシがないのは事実だが、ベトナム麺料理はスープと具材が命であることを知った。麺料理だから麺勝負かと思ったが、実はそうでもない。それを理解して改めて見回してみると、意外にフォーは魅力ある逸品であった。
 また、米粉麺もビール同様、各地に様々あり、ハノイだと牛肉のフォーがわりとおいしく、南部はビーフシチューのフォーがよかった。一瞬、組み合わせに嫌な予感がよぎるが、子どものころ、自宅で母がビーフシチューを作ってくれたことを思い出すと納得がいく。ビーフシチューを茶碗の米で掻き込んだことはないだろうか。フォーは米粉から作られているので、あながち組み合わせは悪くないのだ。
 ほかにも北部には「ブンチャー」というつけ麺もあるし、中部なら「ミークアン」や「カオラオ」、南部はカンボジアから来たという「フーティウ」があるなど、バラエティー豊富だ。

ダナン名物のミークアン
ダナン名物のミークアン。カオラオと共に原型は日本の伊勢うどんと言われている。

魚出汁の麺料理「ブン・マム」
メコンデルタで食べた、魚出汁の麺料理「ブン・マム」。

ビーフシチューのフォー
ベトナム南部のビーフシチューのフォー。


屋台で聞いたベトナムの若者の対タイ感情

 近年の東南アジアは、圏内の国々の結びつきが強くなってきていて、互いの往来が激しくなっている。ベトナム国内のコンビニだけを見ても、棚にはタイの商品がたくさん並んでいるほどだ。
 ハノイでは屋台で隣の人と話すことはほとんどないが、南部の若者たちは積極的に英語で話しかけてきてくれる。その際に聞いた彼らベトナム人の対タイ人感情は、不思議なくらいに平坦だった。タイ人からするとベトナムは「田舎」あるいは「未開」といった印象があるようだが、ベトナム人は逆に好きとか嫌いとかいった感情がほとんどなく、「仲間」という意識があるように感じた。
 日本ではあまり知られていないが、ベトナム人の中国人嫌いは強烈だ。どうも中国本土の中国人や中国政府が嫌いで、それは大昔からの歴史的な侵略や支配、近年では領土(領海)問題などを抱えていることから来ていると見られる。香港や台湾、シンガポールの中華系はまったく問題なく、本土の人だけを特に嫌う。
 逆に言うと、ベトナム人は対中感情以外には特に他国に対してなにも思うところがないらしいのだ。あのアメリカにでさえ(南部だからというものあるかもしれないが)、ベトナム人の若者は悪く思っていないほどである。
 欧米企業や韓国系企業、日系企業は給料が高いので人気の就職先になっているようだが、タイ企業はまだそれほどには思われていない。単純に、同じ東南アジアの、同じ経済規模の国だと思っているのだ。
 その分、ベトナムの若い人もタイに旅行に出かける。僕の自宅そばにあるタイ最大のスーパーマーケット「ビッグC」は特にベトナム人向けに店内の看板にベトナム語が併記される。ベトナムにも同店が進出しているので、その関係もあるのだろう。
 ベトナムからタイに行くと物価が高いので旅行しづらくないか、と訊くと、おもしろい反応があった。ビールを飲みながらだったので、ビールも高いし、と僕が呟くと、
「いや、タイの方が安いだろ」
 と言う。話を聞いていくと、おそらく印象の違いだと思う。先にも述べたように、アルコールは明らかにタイの方が高い。しかし、安いと勘違いさせるのは、食事の料金の方なのではないか。先のようにフォーはタイの麺類と比較すると値段は高い。ただ、その分、日本のラーメンのように量が多く、1杯で満足できる。タイは1杯が少ないにもかかわらず、旅行者の彼らはそれに気がつかず、全体的に安いと思い込んでいるのだ。

ハノイの屋台
ハノイの屋台。どことなく隣の他人とはよそよそしい感じがする。

仲よくなったベトナム人たち
ホーチミンで仲よくなったベトナム人たち。今もここに行くと彼らと一緒に飲む。


在住者に聞いたベトナム人とタイ人の違い

 ベトナム人にとってタイ人は、同じ東南アジアの人たちといった程度のものだ。客観的に第三国の人から見ても大筋では変わらないが、あるハノイ在住の日本人が言っていたことが印象に残る。
「タイ人は外国人がタイ語を話すとバカにして笑うけど、ベトナム人はベトナム語を話そうとする外国人を笑わない」
 これは事実で、タイ人はタイ語初心者の外国人には露骨に嫌な顔を見せることがとてつもなく多い。ある意味、この儀礼を通過できないとタイ語スピーカーにはなれないし、実際にそのときの嫌な顔に負けてしまい、タイ語学習を断念する人は多いのだ。それはベトナムではあり得ないのだという。
 とはいっても、その人も全面的にタイ人を悪く見ているのではなく、こうも言っていた。
「ベトナム人は知らない人同士で目が合っても微笑まないけど、タイ人は微笑むよね。あれはいいね」
 確かに、これこそがタイ人の真骨頂というか、居心地のよさでもある。ホーチミンはわりと優しい感じはするが、ハノイは特に中年女性は目が合うと睨みつけてくる人もいるくらいで、タイとはまったく違う。
 ベトナムは社会主義国であることからある程度報道規制などもあり、情報不足な部分は否めない。腕時計や金のブレスレットを奪うために腕を巨大な刃物で切り落として強盗する事件もあるというが、あまり表に出てこない。しかし、現実的にタイよりも治安がよく、深夜に人通りが少ないところを歩いてもあまり危険を感じない。
 それでも、やっぱりタイに戻ると僕なんかは「ああ、帰ってきた」と空港に降り立つと安心する。そういった微笑みもあるし、全体的にはおおらかな気質がタイ人にある。だから、ベトナムという僕が大好きな国からタイを見ても、なんだかんだ言って、やはりタイはいい国なのだと思う。

ホイアンの来遠橋
1593年に日本人によって架けられたという、ホイアンの来遠橋。

飛行機の前後から同時に客を乗せる風景
ベトナム以外ではあまり見かけない(?)、飛行機の前後から同時に客を乗せる風景。

スワナプーム空港の北側
スワナプーム空港の北側。この風景が見えてくるとほっとする。

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  1. 2019/09/02(月) 13:09:56|
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プロフィール

bangkokdayori

Author:bangkokdayori
●プロフィール
高田胤臣(たかだ たねおみ)
タイ在住ライター
報徳堂ボランティア隊ホアイクワン005

1977年東京生まれ
1998年初訪タイ。その後旅行で何度かタイを訪れ、2000年から1年間、ユニオン・ランゲージスクールに語学留学
2002年9月からバンコク在住
2004年11月から華僑報徳善堂にボランティア隊員として参加
2011年2月に彩図社より「バンコク 裏の歩き方』(皿井タレー共著)、2012年8月に同社より「東南アジア 裏の歩き方」を出版
現在はバンコクに編集部がある月刊総合誌「Gダイアリー」に複数の連載やほぼ毎月特集記事を、ウェブサイト「日刊SPA!」やバンコクの無料誌「DACO」にて不定期で執筆中

http://nature-neneam.boo.jp/

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