バンコク便り

第22回「なぜか被害者が立ち去った事故現場」

サラブリの田舎道で起こった追突事故

 サラブリ県で取材があって1泊ほど滞在したので、以前紹介したサラブリ県の報徳堂ボランティア隊員、湧上和彦さんのチームに同行させてもらった。
 ある金曜の夜10時15分を過ぎたころ、レッカー移動が必要なほどの追突事故が起こったという通報があり、急いで現場に向かった。さすが県全体をカバーする本部だけあり、僕自身が所属するバンコク都内のチームとは移動距離が違った。街灯もほとんどない真っ暗な道を時速120km超で突っ走っておよそ20分。小川を越える橋の斜面でその事故は起こっていた。
 ただ、到着した我々も全員が頭の中に「?」が飛び交う。というのは、追突事故であるはずなのに、なぜか車は1台しかなかったのだ。運転者は地元の40代男性で、本人も認めているが、明らかに飲酒運転だった。いずれにせよタイは日本と違い酒気帯び運転がない。ある程度の数値からが飲酒運転扱いで、それ以下の場合はちゃんと保険も出る。現場で計測していないので酩酊レベルは不明だが、この場合、一目で飲酒とわかるくらいだったので保険適用は難しいかもしれない。
 タイに限らず、交通事故というのはひとつの原因で起こることはない。複数の要因が重なって発生する。簡単にいえば走っているだけでは事故にはならず、そこに不注意が重なるなど、いくつか理由が重なったときに発生するのだ。そのため、一見では理解しがたいケースもあるのはよくあることだが、今回の事故は経過を聞いてもなお意味がわからないものだった。

見通しは決して悪くない場所であった。
現場はこのように真っ暗ではあるが、見通しは決して悪くない場所であった。

車は通らないほどの田舎だ。
バンコクと同様に一応交通整理にボランティアが立つが、車は通らないほどの田舎だ。

レッカー車で移動させる。
自走不可能な車は報徳堂のボランティアが用意したレッカー車で移動させる。



相手にもなにか重大な問題があった可能性

 加害運転手の話によると、橋を越えたところで前を走る白のピックアップトラック後部に思いっきり突っ込んでしまった。被害運転手が降りてきたが、加害者を見て「明日以降に連絡をするから」といい、加害運転手のIDカード、車の登録証などを持って立ち去ったのだという。加害者は被害者側の連絡先は聞いておらず、連絡の術はなかった。
 現場の状況を見ると被害者側にまったく非はない。それにも関わらず、その場での示談、あるいは警察を呼んで現場検証すらしないで立ち去った。タイでは人身事故でなければ保険会社を通すなどで示談にすることが多い。警察が現場検証を行うと交通渋滞を引き起こしたなど規律を乱した迷惑料といった名目で400バーツ程度の罰金が科せられることもある。しかし、それも加害者が負担するものであり、被害者にはなんら立ち去る理由がないのだ。
 こんなケースは僕自身も見たことがないし、サラブリの本部隊員ですら初めてだということで理解できない状態にあった。当の被害者はいないので話を聞くにも聞けない。そこで推測されるのが以下の理由だ。

①飲酒運転を考慮し、後日改めて話し合うことで保険を使えるようにする
②あえて後日にすることで請求額をつり上げる魂胆がある
③被害者側にも警察に会いたくない理由があり、ほとぼりがさめてから話し合う

 まず①の場合、仮に加害者の保険が使えなかったとしても被害者の保険会社が修理費用を立て替え、後日加害者に請求することができる。だから、①の理由で立ち去った可能性もあるが、それは極めて無知な行動になる。
 ②は、例えば病院に行ってむち打ちになったと訴え、診断書などを手に入れて請求額をつり上げるといった可能性だ。加害者は書類を渡しただけでなんら条件設定をしないままに立ち去られている。こういったカタギとは言い難い理由があったかもしれない。
 ③は麻薬などの犯罪に関わっているといった理由などで被害者やその同乗者たちは警察に会いたくなかったのかもしれない。かといって逃げられても困るので、書類を確保して立ち去った。あるいは②も同時進行で行う可能性もある。
 こういった事件・事故の結果は我々レスキューでは把握できないことが多い。あくまでも現場での対応が任務で、その後を追うことは滅多にない。この事故でも加害者はレスキュー隊員らの勧めで警察に連絡し、事故を報告。その後、加害者も警察署へと連行されていった。だから、すべては推測でしかない。
 僕が思うには、可能性としては③が一番高いのではないか。書類を持って立ち去るという手際のよさ。そんな人物が①のような無知なことはしないだろうし、②もわざわざ日を改めて請求額をつり上げるくらいならその場でふっかけてくるのではないか。そうなると③のような、相手側にも犯罪の臭いが感じられなくもない。
 結局、不可解なのはいつも人間の心だ。レスキューに関わっているとよくそう感じるのである。

立ち尽くしてしまったボランティアたち。
加害運転手の話を聞きながら、思わず立ち尽くしてしまったボランティアたち。

かなりの勢いで衝突している。
追突車両を横から見ると、かなりの勢いで衝突している。

スポンサーサイト
  1. 2017/01/05(木) 17:17:06|
  2. 報徳堂
  3. | コメント:0
<<第23回「タイ最大の護符刺青の祭りで警護をする報徳堂」 | ホーム | 第21回「国王崩御から10日 バンコクの様子」>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

bangkokdayori

Author:bangkokdayori
●プロフィール
高田胤臣(たかだ たねおみ)
タイ在住ライター
報徳堂ボランティア隊ホアイクワン005

1977年東京生まれ
1998年初訪タイ。その後旅行で何度かタイを訪れ、2000年から1年間、ユニオン・ランゲージスクールに語学留学
2002年9月からバンコク在住
2004年11月から華僑報徳善堂にボランティア隊員として参加
2011年2月に彩図社より「バンコク 裏の歩き方』(皿井タレー共著)、2012年8月に同社より「東南アジア 裏の歩き方」を出版
現在はバンコクに編集部がある月刊総合誌「Gダイアリー」に複数の連載やほぼ毎月特集記事を、ウェブサイト「日刊SPA!」やバンコクの無料誌「DACO」にて不定期で執筆中

http://nature-neneam.boo.jp/

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (0)
報徳堂 (24)
タイ国王陛下 (2)

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR